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八月某日。夏休みのある日。
見渡す限りの、とまではいかないまでも、かなり広くて背の高いひまわり畑で、走り回る影が二つ。肌を焦がす日差しも気にせず、二つの影はひまわりを揺らしていく。
十分間の鬼ごっこ。最後に鬼だった方がアイスをおごる約束だから、笑いながらも必死。小学生には、アイス代だってバカに出来ない。
最後には、もう十分経った経ってないでケンカになり、結局アイスはどちらも食べることはなかった。
それが何年前だったか、彼女はもう覚えていない。
数日後には仲直りをして、二人でお互いにアイスを買ってわたして、あのひまわり畑で食べたことは覚えている。
その時、彼女は自分の気持ちに気づいていたのかも、今では定かじゃない。
わかっているのは、もう伝えることは出来ないということ。
遠くオーストラリアの、クーマという場所に嫁いで行ってしまった彼女に、今さら想いを晒すことは、彼女が彼女を困らせることは、出来るわけがなかった。
今度友人たちが、彼女の元に行くという。残念ながら休みが取れなかったと嘘をついて、彼女は誘いを断った。
その変わり、写真をわたしてほしいと頼んだ。
今も変わらず綺麗に咲くひまわり畑の前で、昔食べたアイスを食べている、自分の写真。まるで誰かが横にいるみたいに、中心からずれて、カメラを見ずに微笑んでいる。
裏に一言、今年も咲いたよと、そう添えて。
了
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