死神さんの預け物

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花の匂いが、甘い香りに混ざって鼻をかすめた。 春が来たからかな。どことなく町を歩く皆が浮かれている気がする。 人出が多ければ、お客さんも増えて万々歳なんだけどね。 「お春ちゃーん!みたらし団子三本ね!」 「・・・え?あ、はいっ!」 お客さんの声でふわりと意識を戻す。 いけないいけない。仕事中にぼんやりしたら、お菊さんに迷惑がかかっちゃう。ドタバタと板間に注文を伝えにいく。 「権兵衛さん、みたらし三本です!」 黙々と餡蜜を作っていた権兵衛さんが、顔を上げる。 「あぁ、ごめん。雅也(まさや)に頼んでくれるかい?手が離せなくって」 目をクシャッとさせて笑う権兵衛さん。大柄だけど、作る甘味はいつも綺麗に盛り付けられている。 本当に不思議なくらい。 今作っていた蜜豆も、絶対他の店よりもきれいだ。 もちろん、味の方も江戸の茶屋で一番おいしいって自負している。 まぁ、私が作っているわけじゃないんだけど。 それでも胸をはって言えるくらい、権兵衛さんの甘味はおいしいって事だから。 もちろん、淹れるお茶も一品なんだ。 「分かりました!今日もおいしそうですね」 「ありがとう。お春ちゃんも頑張っててえらいよ」 もうこなれたもんだね、と笑ってくれた。この人はいつも私のことを気にかけてくれる。 それには、私の事情が絡んでくるんだけど。
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