死神さんの預け物

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権兵衛さんゾッコンだからね・・・。 確かにお菊さんはきれい、なんだけど! 雅也はお菊さんそっくり。ようは、雅也も美形ってこと・・・ですよ。 権兵衛さんも若くはないけど、結構な美丈夫だし。 その中に自分がいると思うと、ね。  平凡な自分の容姿を呪いたくなる・・・。 一応、看板娘って肩書きを貰ってるんだけどなぁ。 自分で言うかって感じだけどさ。 だって、菊乃屋で働いてる女の子は私だけだから。 必然的にそうなるみたいです。 必然的に。 「お菊さん。少し外の掃除してきます」 「あら、いいの?お願いしようかしら」 のれんをくぐって外に出る。 菊乃屋は水茶屋だけど、甘味も出している。 なんだかんだで儲かっているそう。 外に床机を置いてるから、時々団子の串が落ちてることがある。 誰かが踏んだら大変だから。いつも店を閉める前に掃除している。 「んー、日がのびたなー」 確かに暗くはなってきてるけど、前よりは確実に明るいし、暖かくなっている。 こういう日に外に出ると、三年前を思い出す。 そういや、あの日は雨だったけ。 少し視界が滲む。 いつものことだから。 着物の袖でゴシゴシと目をこする。 戻りたい訳じゃ、無い。 むしろ、ずっとここに居たい。 なのに思い出すたび、涙が止まらなくなる。 だから、出来るだけ考えない。 これはもう、私にはどうしようもないから。 また目をこすって、頬をパンパンと叩く。 掃除だ、掃除。 そんなときだった。 まだ少しぼやける視界に、黒い人影がうつったのは。
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