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紺色の傘と先輩と
ある晴れた日。
悲しくも雨だった入学式から一週間が経ち、僕は学校に馴染んできた。
スクールカーストだったら低くもないが高くもない。
そんな普通の僕は、おかしな先輩と出会った。
小テストは嫌だなーと思いつつ校門を抜けた僕の目に入ってきたのは美人なおねーさんだった。
純和風の涼しげな顔のパーツはひとつひとつが凛とした美しさを持ち、切れ長の瞳はまさに烏の濡れ羽色。
緑の黒髪と評すしかないその風に揺れる髪は腰の辺りで揃えられている。
眉が隠れるように揃えられた前髪は一直線で、眼鏡や長めのスカートと相まって真面目な感じだ。
何より本のページをめくりながらベンチに佇む姿がもう絵になるというか絵にしなければいけないと思ってしまうような姿なのだ。
唯一おかしいとすれば、雨が降る予報もないのに立て掛けられた紺色の傘だろうが、正直言ってそんなものは気にならない。
青いリボンをつけているから二年生なのだろうか。
今まで一度も見たことないし、こんな美人な先輩なら噂になっているだろうから転校生だろうか。
僕はいつの間にぼーっと見蕩れていて、クラスメイトに声をかけられるまで立ち尽くしていた。
うん。
正直に白状しよう。
僕はこの時、先輩に一目惚れしたのだ。
僕の小学校からの親友の情報通に聞くと、その先輩はどうやら転校生ではないのだという。
何でも、その先輩は一年生の三学期から体を壊し、入院していたらしい。
成績優秀、眉目秀麗、でも運動は少し苦手。
そして。
「その先輩、すげー晴女なんだって」
「え?」
「なのにいつも傘を持ち歩いているらしくて」
「はい?」
「っつーか、お前何でそんなこと聞くんだよ?」
「イヤーナンデモナイヨー」
「絶対何かあるだろ怪しすぎるよマジで」
「アハハー」
次の日。
親友を待つふりをして先輩の姿を十分ほど眺めてから始まったこの日は、部活動見学がある日だった。
親友と部活をほとんど見終わってから、
「んじゃ、俺吹奏楽見に行ってくるわ」
と言い残し走っていく親友を横目に、僕はのんびりと
大人数ではない文化系の部活と部活になるには人数が足りない同好会が集まる旧校舎を散策していた。
他意はなかった。はずなのに。
奇しくも、心からラッキーなことに先輩を見かけた。
叫びだしそうな心をなだめて、先輩の入っていった部屋の名前を確かめる。
妙に達筆な字でしたためられたその看板は、達筆すぎて読みにくいが、確かに
『天気・占い同好会』
と書かれていた。
今更ながら、この看板を見てすぐに逃げ出せば平穏な学校生活を送れていたのだろう。
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