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赤ずきん
赤い頭巾を被った女の子は、スケッチブックを一枚めくった。
カメラがズームインして、そこに書かれている文字を拡大する。
『ダーリン気づいてくれなかった。せっかくお休みの日を狙ったのに』
そこで女は一枚めくった。
『ダーリン助けて。オオカミに食べられちゃう。ずっと、ずうっと、アタシを守ってね』
女がスケッチブックをどけると、そこには、上野にあるはずの、ピカソの赤の時代があった。
すると女は席を立ち、スタジアムのどこかへと消えていった。
カメラが切り替わり、今度はベイスターズのファンが映し出される。
ぼくは記者席を離れ、出口へと向かった。
そうか。そうだったのか。怪盗赤ずきんの正体は・・・
5回終了時だと、まだこれから入場してくる人もいる。人混みをかき分け、横浜公園に出ようとするが、なかなか進まない。
かつてあれに似たようなセリフを言ったことがある。
小学校からの卒業アルバムを見たってわからないはずだ。
あれは幼稚園の学芸会。ぼくたちのクラスは赤ずきんちゃんの劇をやった。
ぼくの役は猟師の役で、オオカミのお腹から赤ずきんちゃんを助け出したあと、こう言うのだ。
「今度オオカミが来ても、ぼくが助けてやる」
あのとき、赤ずきんの役をやった小さな女の子がいた。
小学校は別々で、どこに行ったかわからない・・・
やっとのことで横浜公園に出た。ここで野球の試合があるときの、いつもの喧騒と、夜の都会があるだけだった。
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