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ぼくは「ちょっと忘れ物しちゃって」と言って、ガラガラと引き戸を開けてさっきのうどん屋に入った。 自分が座っていた席を調べるフリをして、壁のテレビを見る。 お昼のバラエティ番組がスタジオに切り替わり、緊急ニュース速報が始まった。 神妙な顔つきをしたアナウンサーが神妙な声でニュースを読んでいる。 「繰り返しお伝えします。国際指名手配されている窃盗集団『怪盗赤ずきんちゃん』が、犯行予告を表明しました。今年の夏、7月23日から8月26日まで、東京上野にある国立西洋美術館にて開催予定の、『知られざるピカソ〜赤の時代展』に展示される貴重な絵画を期間中に盗みだすという声明が警視庁に届きました。繰り返します・・・」 怪盗赤ずきんちゃんといえば、近頃世間を騒がせている国際的な窃盗グループだ。 かわいらしい名前とは裏腹に、わざわざ警察に予告をしてから犯行に及ぶという、大胆不敵な手口で有名だ。 つい先月も、マドリードのプラド美術館に展示されていた、後ウマイヤ朝時代の貴重なルビーの王冠が怪盗赤ずきんちゃんの手によって盗み出されたばかりだ。 このときも、スペイン国家警察は事前に犯行予告を受け取っていたが、万全の警備体制を敷いたにもかかわらず、犯行を許してしまった。 怪盗赤ずきんちゃんのメンバーは、赤ずきんと呼ばれるリーダーの女を筆頭に、猟師と呼ばれる凄腕のスナイパー、オオカミと呼ばれる怪力男、そしておばあさんと呼ばれるが、その正体は不明の変装の達人の4人だ。 このたった4人の犯罪者たちが、目下世界各国の警察組織を混乱に陥れていた。 ぼくがひと通りニュースを見終わったとき、再び携帯に着信があった。 「すいません。ここで忘れたかと思ったんですけど、違ったみたいです。たいしたものではないので、気にしないでください」 愛想笑いをして外に出る。 「ハロー。ダーぁリン!アタシのこと思い出してくれたかしら?」 またさっきの女だ。どこかからぼくを見ているのだろうかと思ってキョロキョロと辺りを見回してみるが、昼時の難波は関西で一、二を争うほど人通りが多い。
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