赤の時代

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赤の時代

怪盗赤ずきんちゃんが狙っているというピカソの赤の時代というのは、社会の底辺に暮らす人々の悲哀と絶望を陰鬱な色調で描いた青の時代と、新恋人を得たのち、徐々に人生の喜びに目を向けるようになったバラ色の時代の間に挟まれた、短い期間のことだ。 青の時代から一転して、赤を基調とした激しい色彩の作品は、ピカソが憂鬱から抜け出した反動からの躁状態にあったわずかな期間に制作された、たった10点しか残っておらず、最近までその存在が知られていなかったために、幻の時代とも呼ばれる。 今回そのうちの1点が東京上野の国立西洋美術館で展示されるということで、開催前から大きな話題を呼んでいるのだ。 怪盗赤ずきんを名乗る女から、『内緒の情報』としてわざわざぼくに電話があったということは、今のニュースでは報道されなかったなにかを暗に伝えようとしていたのに違いない。 電話では、怪盗赤ずきんは、ニュースで報道された以上のことは言わなかったのだ。 それでも特ダネというからには、ぼくにしかわからない秘密がある。 ひとつには、犯行を行う日程だということはすぐにわかった。 ぼくはカープの試合日程とともに全国を移動する。 ぼくが東京で取材できるということは、カープが東京遠征をするときに違いない。 カープはこのあと名古屋に移動してドラゴンズとの3連戦。週末はオールスターがあり、横浜でベイスターズとの3連戦を挟んだあと、広島に帰る。 ピカソ展の開始は7月23日。その日カープは広島にいる。ピカソ展が終了する8月26日までのあいだに、東京遠征があるのは7月26日から8月1日だ。 ヤクルト巨人と6連戦があるため、ぼくもこの期間は東京にいる。 おそらく犯行はこの間に行われ、あえてぼくに取材をさせようとしている。 しかし、なんのために。
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