私が嫌いな愛崎さん

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放課後。 私は一人、授業で使うプリントをまとめていた。 本当なら当番である愛崎さんの仕事だ。 でも彼女はサボってしまったらしく、同じ愛崎のよしみで……なんて先生に訳のわからないことを言われ押し付けられた。 (よし…もう終わるな) 一区切りつき、小さく息をはく。 すると教室の扉が開き、誰かが入ってきた。 ……愛崎さんだった。 「……」 愛崎さんは私に気付き、かすかに目を見開いた。 でも特になにか話すわけでなく、私から目をそらすとそのまま自分の席についた。 忘れ物だろうか。机の中を探っている。 ……なんなの。その態度。 これはもともとあなたの仕事よ。 私の苛立った視線に気づいたのか、愛崎さんが顔だけ振り向く。 「……なに」 「っ」 「なんか用?」 「あ、その…………ごめん、別に」 腹が立っているはずなのに。 彼女のどこか威圧感を感じる態度に、つい押し黙り、謝ってしまう。 「ふーん」 愛崎さんはつまらなそうにそういうと、前を向いた。 そのまま会話は終わる……かと思ったが、再び『ねえ』と話しかけてきた。 「アンタさあ、五十川のこと好きなの?」 「……え」 「いっつも見てるじゃん。話しかけるわけじゃないのにじーっとさ」 「っ!」 気づかれていた。 恥ずかしさと気まずさで顔が熱い。じわりと変な汗が浮かぶ。 「五十川、彼女いるよ」 「……!」 「本人から聞いた。一年のときから付き合ってんだって」 「……」 言葉がでない。 愛崎さんがゆっくり振り返る。今度は体ごと。 私を真っ直ぐに見据えた。 「あはっ、可哀想」 そう言われた瞬間、頭の中で火花がはじけた。 五十川くんに彼女がいたことは確かにショックだが、仕方ないと納得する気持ちもある。 でも愛崎さんに……この人に『可哀想』と笑われたとき。 とにかく自分が惨めで仕方なかった。 思わず席を立ち上がると、愛崎さんの白い頬をたたく。 乾いた音が響いた。 「……うるさい!あんたに何がわかるの!あんたなんか……あんたなんか大嫌い!!」 気づけばそう叫んでいた。
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