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「………ふーん」
愛崎さんは一言だけそう言って、鼻からふんと息を吐いた。
明らかに白けたような表情。
「あ、ご、ごめん。なんか変なこと言ったよね。本当にごめんなさい」
「……ていうか、愛崎さんってさ」
「え」
「すっごいどもるね。あはは、おもしろー」
あはは、と愛崎さんが声をあげて笑う。
別に取り立てて大きな声だったわけじゃないのに。
いやに響き渡ったように聞こえた。
「あ、あは……あ、わたし緊張しいだから……」
そう言って、なんとか笑顔を作った。
でも胸の中では黒い感情がゆれる。
どもってしまうのは、小さいころからの癖。
慣れてきたらそうでもないけれど、初対面のときは人見知りも相まって、うまく話せないことが多い。
変だよね。挙動不審にも見えちゃうかもね。
そんなの自分がよくわかっている。
わかっているのに………。
愛崎さんはひとしきり笑うと、もう飽きたとでも言うように前を向く。
綺麗な、ほそい背中。
その背中を見ながら、形のなかったイライラが、濃い輪郭を持っていくのを感じた。
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