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一通りの説明と館内見学を終え、俺たちは再びラウンジへと戻って来た。
「晧月、私絶対にここでヴェラ・フォンのドレスを着て式を挙げたいわ!」
目の前の巻き髪の女性は、指にキラリと光るダイヤを俺へと見せ付けながらそう訴える。
因みにヴェラ・フォンのドレスとは、花嫁憧れの海外セレブ御用達の芸術作品とも呼ばれるかなりお値段の張るドレスだ。
高級志向の見てくれが良い女性は、凡そこの流れを踏襲するのである。
SNSに操作されているかのように。
「まひる、いいんじゃないか」
“晧月”と呼ばれたハイスペック男は、名刺交換をした時同様やはり興味無さそうな声で答えるとスムーズにそのまま契約へと進んでいった。
大して料金表も見ずに。
その金持ちの余裕が余計俺を苛立たせていた。
同時に、この男にとって結婚なんてステータスがまた1つ増えるくらいの軽い感覚なんだろう。
その感覚に、同じ男として怒りを通り越して軽蔑の気持ちさえ浮かんで来る。
自分の選んだ女くらい、大切に向き合ってやれよ!!
捨てられた経験のある俺は、そう内心で怒りをぶつけた。
「今からですと、最短でも1年半先となってしまいますが……」
希望の日程を述べる“まひる”と呼ばれた女性に、残念ながら来年の今頃も既に予約でいっぱいであることを告げる。
「えぇー、どうにかならないのぉ?!私、この時期にお式を挙げたいのに!晧月どうにかしてよぉ!」
まひるは、晧月の腕にしがみつき我儘を連発する。
肝心の晧月は、黙ったまま微動だにしない。
「そうは言われましても……」
どうにも埋まっているスケジュール表を何度も俺は見返しては、どこかに予定を入れられないか何度も確認する。
だが、何度確認したところで空くはずも無い。
「ちょっと失礼……」
男はそう言うと、ラウンジにある柱の物陰へと携帯電話片手に消え、何やら会話をした後再度俺たちのいる席へと戻ってきたのだった。
「大丈夫ですか?」
そう俺が声を掛けるとほぼ同時位に、「どうもすみません!」と言う、よく聞き慣れた声が聞こえてきた。
社長だった。
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