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それからというもの、式の打ち合わせで顔を合わせた後でも、俺の残業の日は先日と同時刻にあのコーヒーショップで男と顔を合わせるようになっていた。
どこにでもあるチェーン店のはずなのに、男は「ここが気に入った」そう言って頻回に訪れている。
客と店員。
その関係を良いことに、男は……徳富晧月はいつも俺を見かける度にしつこく話し掛けてきた。
仕事が関わっている以上、無下にすることもできない俺は、その実とりあえず男の話を聞いている……フリをしていた。
そんな生活がルーティンとして、定着しつつあったある日。
いつもより2時間近く早い時間に仕事を終えた俺は、まだ人がそれなりにいるコーヒーショップの前を通り過ぎた。
すると、既にいつものテラス席には晧月が座っていた。
だが、今夜の俺は彼の暇潰しに付き合っている暇は無いのだ。
何故なら、これから甘過ぎる恋愛映画を1人こっそりレイトショーで観に行く予定だからだ。
チラリと視界の端に晧月を認めると、そのまま俺は駆け足で通り過ぎる。
次の瞬間、背後から腕を引き留められるのを感じた。
「今日は、寄らないんですか?」
「あ、徳富様……今夜は俺、ちょっと用事があって」
「じゃ、じゃあほんの少しだけ時間下さい!今夜、神宮さんにコレを渡すためだけに待ってたので……」
そう言うと、晧月は無理矢理紙のような何かを俺の手の中へ握らせた。
「……え?」
握らせたものの正体が何なのか、恐る恐る俺は掌を開けて確認する。
「これ、映画のチケット……」
よく見ると、それはこれから観に行こうとしていた映画のものだった。
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