赤の証明。

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「変なにおい♪」 少女は、もう一度形の良い鼻を近付けて耳の後ろの匂いを嗅ぐ。 「あの、やめてくれない?」 「おじいちゃんの匂いがする♪」 一時、古風な和式の便器の直ぐ近くで、後ろから抱きしめられる中年男と後ろから中年男を抱きしめる少女がいた。 便器は中年男のギブス右足によってレバーを押され、とっくに洗浄されている。 「ねぇ、なんで昨日あんなところで転がってたの?」 「特に意味はないよ」 「うそ。ほんとうは?」 「この足じゃ、タクシーから降りても階段を上れなくて途方にくれてた。ヘルパー雇う金もないし…」 「あたしは雇えたのに?」 「日給が安かった」 あたしは安いおんなじゃない! ぷりぷりしながら、だがそれでも後ろからの抱き付きをやめない少女は、 「どうして入院しないの?どうみてもオジさん、全身健康そうじゃないのに。死ぬつもりなの?」 すると中年男は。 「自然に死ぬさ」 笑顔で云った。
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