赤の証明。

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 察するに、中年男は無職だろうことははじめから見当はついている。  だったら高額医療の保険請求を区役所にして、生活保護申請もできるかどうかはわからないけどして苦しい内情を相談したらいいのに。と、少女は思ってはいる。  その中年男の貧乏さを証明するかのように、アパートの室内の調度品は簡素を通り越して貧相だった。  居間にはテレビすらなく、あるのはちゃぶ台じみたテーブルと月払い千円もしないガラケーと、タンス代わりに拾ってきたらしいミカンとリンゴの頑丈そうな段ボールが二箱に、隣のかび臭い和室には、いつから干していないのかわからない、やや黄ばんだせんべい布団が一組があるだけ。  それとちっちゃな冷蔵庫が一個。だけであった。  少女は本気で思い遣る。  このオジさんは“緩慢で安らかな死”を願っているのじゃないかと。  その見届け人として、たぶんあたしは雇われたのだと云うことを。  なんとなく気付いてしまったのだ。
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