赤の証明。

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 少女は買い出しが終わると、商店街の中程にある一車線の路に出て、バイト契約を結んだ者の住まいであるモルタル・アパートにあるきだした。着くまでの時間はものの数分だ。 トントントン。  ぼろい見た目に反して頑丈な鋼鉄で簡素な造りの階段を登り、202号室の鍵を開け靴を揃えて室内に入り、少女の背丈よりもまだ低い安物の2ドア冷蔵庫に買ってきた食材を分けていれた。 「早かったね」 「補習の最終日だからね。四時限までなんだよ」 「そうか、それはよかった。夏休みにはいって初めてゆっくりできるね」 「はい♪」  帰って来た少女に奥の和室から声をかけた中年男とは、昨日はじめて出逢い面識を得た仲だ。 「生活費は足りそうかい?僕はどうもそこのところがよくわからなくてね。だから離婚されたんだけど。…あの、もしも足りなくなったら遠慮することはない、ちゃんと云ってくれるとありがたいんだが」 「お金もらったのって昨日の今日じゃないですか♪そんな急に無くなったりしませんよ♪使い込みも致しません♪それともナニかな?あたしがおじさんを騙して盗るとでも考えてんのかな?」  少女はホッケを一尾、一口コンロの上に置いた網に載せ換気扇を回し火を点けた。弱火である。  そして炊飯器を開け、朝炊いた残りのご飯を自分と中年男の分の茶碗に手早くよそい、電気ポットのお湯を使って食器棚に放り込まれていたインスタント味噌汁をお椀に注ぎ、夕方なのに朝ごはん用の味噌汁を作る。  その僅かな時間をたっぷり使って、中年男は顎に手をおき眉間にシワを寄せて真剣に何かしらか考えていた。 「ふっぱっ!」  やがて考えがまとまったらしく、すっとんきょうな声をあげたと思いきや、大きく開けた口を恥ずかし気に両手で閉じた。
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