赤の証明。

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 少女から「はい♪」っと手渡された茶碗を両の手で包んで中年男は、照れ臭そうに顔を赤らめながら柔らかくたかれたご飯を一口頬張って、インスタント味噌汁も旨そうに啜って咀嚼して飲み込んだ。 「美味しい?」 「う、あ?うん、とっても旨いよ♪」 「よかった!」  少女は表情をパーっと明るくさせて、自分も座り食事を始めた。 「それにしても君は誰に料理、いや、私みたいなおとさんが好きそうな和食を教わったんだい?」 「正当な和食って言っていいのかは分かんないけど、料理自体は一緒に住んでるおばあちゃんに教わったんだよ。それにさ、これくらいの食べ物はスーパーやコンビニでも揃えられるよ♪だから、あたしがちゃんと作ったのは昨日のサバの味噌煮と今日のホッケと、浅漬けだけだね♪」 「美味しいよ」 「あんがと♪」 「お父さんとお母さんは?」 「事故と病気で死んだよ?」 「あっと、聞いて悪かった」  気にしなくてもいいのに。  少女は言ったが、生来気にしすぎる性格な中年男は心底済まなそうな顔をした。  年の割りに可愛いひと。  少女は囁くように呟き、中年男に煮出して冷やした麦茶を元はカップ酒の余りのガラスコップに注ぎ、わずかに残ったテーブルの隙間にねじ込むようにして置いてやった。 「ありがとう」 「ありがとうはもういいよ。それより早く食べちゃってよ」 「あ、うん。ごめんなさい」  よく謝るひと。そんで、とっても小心なひと。  そう少女は心の中で中年男の価値を軽く値踏みをした。
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