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第二章 天才
舞台は非現実の王国。
跳ね回るウサギはナゴタ。そこに、大きな鷲が急降下してくる。地面すれすれまで急降下して急停止そしてホバリング、また少し急上昇してホバリング。
鷲の正体はキャロライン、メガリア国籍ヒスパニックの少女。ヒスパニックの意味は地球とだいたい同じ。ミリアなどメガリアの南に位置する国からの移民で離婚や避妊を禁止とする宗教を信じる人が多くメガリアの人口構成の多くを占める民族。
彼女はまた低空飛行ホバリングしながら叫んでる。
「ナゴタ~。イディオは見つかった~」
「やぁ、キャロライン。残念ながら未だ見つからないんだ」
「見つかったら、あたしにも紹介して。非現実の王国の王様。ぜったい会ってみたい」
「うん」
ナゴタ(ウサギ)はそう返事してなおも野原を駆け回る。
そこに空飛ぶマンタ(オオイトマキエイ)の姿をしたキャラクターが出現。正体はナゴタの友人にして類い稀な天才児ウィルジーである。
ナゴタが声をかける。
「ウィルジー、いつもそのマンタ描くんだね」
「描きやすいし空を飛ぶイメージの中では操作も効率的だからね」
「空を飛ぶのって疲れるらしいね。キャロラインが言ってた」
「鷲で低空飛行やホバリングをしてたら、そりゃ疲れるさ」
「空を自在に飛びたいなら専用のドローンみたいの描くってことあるけど?」
「あれは、ちょっとうるさいんだよね。飛行音が。思索の邪魔なんだ」
「だったら、空飛ぶのは諦めたら?ケンタウロスとか描いたらいいじゃん。あと翼もあるケンタペガサスなんってのもあるよ」
「マンタは動かすパーツが少ないのが楽なんだよ。現実に戻ったとき、手も足も首も動く複雑さにはびっくりしちゃうくらいさ」
「じゃあ、現実ではぼくと身体を取り替えっこするといいよ。両足無いからね。少し、単純だ」
「それはうらやましい」
「だろう。なんなら、手も顔もみんな取っちゃえばいいよ」
「そうだな、人間ってのはインプット一つ、アウトプット一つ、そんだけあれば後は頭脳の出来だけで生きていける筈なんだけどな。単純な尊厳ってやつさ」
「天才の言うことはよくわからないな」
「なるべく単純なものの方が神に愛されている気がするのさ」
「ぼく、それとまるっきり逆の考えを持った奴知ってる」
ナゴタはそう言って一人の友人を思い浮かべた。
「ボクも思い当たる奴居るな」
そうウィルジーも言う。どうやら同じ人物を思い浮かべたようだ。
「あいつも天才だよね」
「ああ。あれは凄いよ。それよりナゴタ、君こそ、そのウサギの姿が飽きたりしないのかな」
「飽きることもあるけどさ。今日はイディオに会いに来たんだから。この前、会ったときと同じ姿じゃないと分からないだろ」
そんなことはないだろう。イディオはゲームの管理者なんだから。
と、そう思ったウィルジーだが、口には出さない。
「イディオか。本当にイディオ会ったのか」
「間違いないよ!と言いたいけど、よく分からない。そもそも、シンギュラリティの卵がなんでこのゲームに交ざっているのか。本当に分からない」
「国によって、メーカーによってかなり仕様の違うVRマシンに対応し、子どもが描くへたくそな落書きを何を描いたものであるか瞬時に判断して、それを実体的モデルとして多次元イメージ化、リアルタイムで動かす。それだけで恐ろしい計算量だし、更にそれを何千人分も同時にこなしているとなると、イディオ、シンギュラリティに近い存在が居てもおかしくない……」
「でも誰が、何の目的でこれをつくったんだろう。」
「多くの人が関わっているが、大きいのは天才・豊原遍って人だよ。そこまでは調べた」
「どんな人?なんの研究をしてるの?」
「年齢性別不詳。おそらく京国の男性。で、本人は何の研究成果も無い人なんだ。色々な研究者を繋いで予算をどこかからぶんどってきて何か組み合わせによる新しいことを実現させる人。でもプロジェクトが軌道に乗って暫くすると姿を消しちゃう。ネットを検索してもちょっとやそっとじゃ何も出てこない。調べれば調べるほど謎な人なんだ」
「そんな人をよく見つけたね」
「そこはまぁ、こっちだって天才だからね」
「さすが、IQ213はだてじゃないね」
「そうだけど、子どもの知能指数は高めに数値が出る。本気で豊原遍に挑んだらとても勝てない。それが天才・豊原遍だ」
「よくわからないなぁ。ウィルジーのことだってよく分からないのに、それ以上の天才ってなに?って感じ」
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