第一章 競争

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第一章 競争

 The UnRealms《非現実の王国》の広報担当者が出資者向けの解説をしている。 このゲームは中学生以下の子どもしか遊べない。基本的に無料。しかし、ゲームの開発にも世界中のVRマシンを管理するにもお金がかかる。その為、スポンサー募集は欠かせない。  ……仮想空間は二段階です。最初の空間では大きな白紙のキャンバスの前に立ち、そこに子ども達は思い思いの絵を描きます。プログラムがその絵の内容を理解したところで、キャンバスは子ども達を呑み込みます。  そこはまさに自分たちが今まで描いていた絵の世界。自分はそこに描かれていたものに心を乗り移らせます。鳥になれば空を飛べますし、モグラになれば地面を掘り進むこともできます。このように非現実を体感することは、遊びの本質を突いたものと言えるでしょう。…… ……かつて、ホイジンガは『ホモ・ルーデンス』という言葉を用いて、遊ぶことが人間を人間たらしめる根源であると説きました。その思想を継いだロジェ・カイオワは遊びから四種の要素を抽出しました。 まずはイリンクス《めまい》の要素。これはトランポリンやブランコなど日常にはない体性感覚。  そしてミミクリ《模倣》。おままごと、などに代表される何かの役割を、あるいは他の生き物に心を移しマネて遊ぶこと。非現実の王国が提供しているのはまさにこの二つです。  そして、残る二つ。アレア《偶然》の要素はサイコロを用いた様々な遊び、伏せられたカードを用いるような遊びに代表されるものですが、非現実の王国ではもっとスマートにして複雑な乱数を用いて子ども達に様々なミッション・クエストを与えています。そして、最後にアゴーン《競争》の要素となりますが……
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