第一章 競争

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 ナゴタは呟く。 「異世界の王に呼ばれて、異世界を救う話は読んだことがある。だけど、異世界に呼ばれて現実世界を救うように言われるなんて……」  少年ナゴタは元々は東南スケイラ・不安定の弧の一地域・ゼクトアールの出身。メガリア合衆国の養父達(ゲイカップル)に引き取られメガリア国籍を持つ。ゼクトアールは隣のヨクトアールとの紛争、兆国による占領など戦争の絶えない国である。ナゴタは地雷によって両親と両足を失い、今の父に引き取られた。養父達はメガリア最大の傭兵派遣会社の実質的な代表である。  つまりナゴタは現実には車いすで、イディオが充分な人工超知性体に成る前に現実世界に引きずり出そうとしていたことになる。     ※東南スケイラ=東南アジア     ※メガリア合衆国=アメリカ     ※兆国=中国  バーチャル・リアリティ・マシンから起き上がるナゴタ。パパに助けられて車いすへ。  その現実世界でナゴタが言う。 「ねぇ、パパ。ダディはイディオの何を恐れているの?」  養父の片方が答える。 「イディオが支配する世界は戦争の無い平和な世界になるだろう」 「良いことじゃない」 「戦争が無くなると、パパもダディも仕事が無くなっちゃうからね。イディオには少し減らしてもらうだけでいいんだ。だから、人工超知性を獲得する前に出てきて欲しい。そして、出来るならば我がマーセナリーズ・サイカーの為に働いて欲しい」 「それはちょっと身勝手すぎるよ」  ナゴタは目を閉じて新しくできた友達の幸せを祈る。
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