第一章 競争

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 舞台は0051年 京国(けいこく)五百城那(いおきな)。  ナゴタとイディオが出会った時から見ると四年半前。  京国は日本とよく似た国。五百城那は、地球で言えば沖縄に相当する場所。  変装した京国のマッドサイエンティスト豊原遍(とよはらあまね)、メガリアの軍属レミライ・ドーレッド、この二人の会見の場。  レミライ・ドーレッドはあらかじめ聞いていた情報を元に怪しげな人物に声を掛けた。 「坂元龍馬さんですか?」 「ええ、」 「本名ではないですよね」 「もちろんです。その方がお互い好都合でしょう」 「そうは思いませんね。取引は信用が第一、私は本名と正しい所属を名乗りますよ。大統領府官房局員五百城那駐留軍詰め管理監をしておりますレミライ・ファランクラシス・ドーレッドと申します」 「なるほど、誰も名乗った内容を覚えきれない。それにしても待ち合わせに変な場所を指定してきましたね」 「老人ホームに併設されたサロンです。誰でも入れるんですが、監視カメラや警備員などセキュリティはしっかりしている。さて、本題に入りましょうか」 「いいでしょう。依頼主はあなた自身ですか、それとも軍」 「ヘイレン・オライリー大統領です」 「ほほう。かの有名なロボット・レディ」 「その綽名、彼女本人には言わないように」 「本人出てはこないでしょう」 「いいえ、マジカ・コールを通じてですが、大統領ご本人がお話になるそうです」 「そうですか、そりゃまた、かなりのおおごとですね」  そう言うとレミライ・ドーレッドはテレビ電話の画面を開く。 「ミスター・りょうま。五百城那本島までご足労頂き本当にありがとうございます」  111代メガリア大統領。女性。その冷徹さからニックネームがロボット・レディ。 この時、0051年が二期3年目後半。平和主義者を標榜しているが、保守的で現実路線でも知られる。 「うん、大統領もカメラの前までご苦労さん」  ぶっきらぼうに言う豊原遍。続けようとする大統領にとんでもない発言をぶっこむ。 「ところで……」 「大統領閣下。本題に入る前にちょっといいですか」 「何でしょう?」 「おっぱい見せてください」  画面の内外で当然の驚愕反応。 「ええっ(絶句)!」 「貴様!大統領に向かって何てことを!」  遍は平然としている。 「彼女がAIでも替え玉でもないことを確かめないとこちらも安心できません。でも、今のリアクションで大統領が本物であることは確認できました」 「時間がありませんから、お話を始めましょう」 「なるほど、噂以上の素っ気なさだ」 「なにか?」 「なんでもないですよ。さ、お仕事のお話を」 「自動でプログラミングをするシステムを開発して貰いたい」 「んー、ちょっと厄介な問題ですよ。そもそもコーディングなど殆どの部分は自動化されています。残っている部分はプログラマが自分達の立場を守るため、どうしても手放せない部分だ。それにはユニッカというシステムが関わっており、兆国、京国、リンドの一部で用いられる澗字が大変重要な鍵だ。そのくらいのことは既に了承済みでしょうな?」  ちなみに澗字とは地球で言う漢字のこと。リンドはインドにあたる地域でそのあたりに地球とは歴史的地域的に違いがある。 「承知しています。ですが極秘に拠出できる予算には限りが有る。すべて含めて一億で」 「ドルで?」 「無論」 「額が額ですし、優秀なプログラマが協力してくれるなら可能ではあります。ただ、自分達の仕事を奪うような装置を喜んで開発してくれる馬鹿はおらんでしょう。死刑囚の技師に電気椅子を設計させるような話です。特にメガリアの軍需産業向けプログラムは京国にとって最も美味しい仕事です。それを無くそうとしたら……殺されるでしょうね。 ところで、大統領。兆国と戦争するおつもりですか」 「そのような気はまったくありません。ただ、兆国と戦争状態になったとき、国民の絶望をやわらげるために、是非とも必要なのです」 「なるほど、それならばお引き受けいたしましょう」 「あなたが平和主義者であることは聞いております。私もまた平和主義者です」 「お引き受けしましたので、最後まで責任は持ちます。ただし、けっこう時間かかりますよ。何しろ、京国での協力者は少ないでしょうからね。むしろ兆国のプログラマで自国に不信感を抱き、メガリアに親近感を抱いているようなのを探し出して使う事になるでしょう」 「つまり、依頼を引き受けていただいたということで宜しいか?」 「ええ、ただし十年くらいはかかりますよ。それで宜しければ」 「分かりました。予算提供など詳しい話はそちらのドーレッド管理監に聞いてください」 「まぁ、そのあたりで折り合わなければ断りますが、秘密は守ります。墓場まで持って行きますよ」 「ええ、天才と呼ばれる人物を信用しておきます」  謎の天才、豊原遍。シンギュラリティを生み出した人物だが、最後まで歴史の表舞台には出てこない。知っている人だけが知っている。  レミライ・ドーレッド。期せずして歴史の大きなうねりに巻き込まれていく。それは、とある少女を通して……。  大統領の映像を閉じるとドーレッドは言う。 「じゃあ、お金の話だ。一度しか言わない。予算枠は軍の機密費。我々が今居る場所は老人ホーム、保育園、孤児院が同じ場所に設置された複合施設。山峯自然院長によって運営されている。ここに本来飛行コースになっていないはずのメガリア軍所属ドローンが墜落したことにする。メガリア軍はそれを直ちに回収し、迷惑料・慰謝料・口止め料として毎年二千万ドルを山峯自然院長に払うことにした、こういう形で書類がつくられる。この二千万ドルから一千八百万ドルがあんなたの指定する口座に動く」 「ずいぶん、込み入ったもんだ。その山峯なんちゃら院長には話が通してあると、そういうことだな」 「ああ、マスコミ連中への対処だ。この辺ではイオキナ日報は軍事増強派だから軍が関わっていると見たら首をつっこまない。福祉政策重視のウチナンTV系列は施設への寄付が止まる可能性を考えて書き立てない。報道は押さえてある」 「完璧だな。どこの天才が考えたんだ」 「大統領直属の政策研究所だ」
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