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百蟲の籠
八本の橋が見下ろす都市に、紫色の蝶が、あてもなく彷徨い続けている。
幻にも見えるその姿は、確かに在った。この街には小さな生命の痕が、いくつも残されている。
少年たちの声が聞こえる。彼らはそびえ立つコンクリートの隙間を縫い、どこまでも駆けて行った。
報われなかった感情たちが、ひとつの生き物として蠢き始める。この街が生み出そうとしたもの。その正体は静かに熱を帯び、やがて、静かに眠る。
「さようなら、百蟲の籠」
水面に小さく波が立った。
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