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「じゃあ、おまえらに質問だ。俺はなんの化け物だ? 何が変化したもんに見える?」
「そりゃあ、もちろん唐傘だね。どこからどう見ても見間違えようがねえ」
「うん。破れてボロボロになって捨てられたオンボロの古い唐傘だ。間違いない」
「うるせえ、余計なことまで言わなくていいんだよ。ともかくもだ。つまりは古くなった道具の化けた妖怪――付喪神ってことだ。とすりゃあどうだ? なにも付喪神は日本に限ったことじゃねえ。西洋の道具が入って来るってこたあ、あちらさんの道具の化け物達も一緒にやって来るってことになるじゃねえか」
「ああ、言われてみりゃあそうだな。異人さんみてえに異国のお仲間達もはるばるお出でなさるってわけだ」
「んじゃあ、これからは異国の化け物達とも仲良くしなきゃあいけないね」
「アホウ! どこまでおめえ達はお人好しなんだ。んなことだから、脅かそうとしたって人間達にちっとも怖がられやしねえんだよ。いいか、よく考えてみろい。行燈はランプに、草履は靴に、煙管はパイプに……日本古来の道具達が西洋の新しい物にどんどん取って替わられてってんだ。俺達だってやつらに追われて居場所がなくなっちまわあ」
「そ、そうなのかい!? いや、まさか、そんなことが……」
「おいら、そんなことぜんぜん思いもしなかったよ……」
熱を帯びた唐傘小僧の弁舌に暢気な他の小僧二人もようやく危機感を覚え始め、普段から血色の悪い不健康そうな顔をなおいっそう青ざめさせます。
「あのね、今時、んなのほほーんと構えてるのはおめえらぐれえのもんだよ? 一反木綿は売るだか買うだかいう羊の毛の織物が工場のカラクリで大量に生まれてるって聞いてビクビク肝冷やしてるし、ぬりかべの野郎なんざ頑丈な煉瓦の壁の化け物にどうやったら勝てるかって戦々恐々よ」
「あの図体のでけえぬりかべまでそんなかい? そりゃあ、よっぽどだな……」
「どうしよう……おいらもなんだか急に怖くなってきちまったよ。もう、夜一人で厠行けないよお」
「アホ! おばけが厠怖がってどうすんだよ。でも、俺達傘の化け物だって他人事じゃねえぞ? 布張りした丈夫な洋傘の野郎どもに取って代わられるかもしれねえ。対してこちとら紙貼った唐傘だ。喧嘩になったら勝ち目はねえ……」
降って沸いた西洋妖怪の到来に神妙な顔つきになって黙り込む三人小僧……しかし、雨降り小僧と豆腐小僧がふとあることに気づきます。
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