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翌日の朝十時。白いパーカーに細身の濃紺のジーンズを履いた私は、心配になって自転車で三十分掛けて、紀美の家に様子を見に行った。玄関先には紀美の母親が出てきた。
「ああ、美由紀ちゃん。昨日はありがとうね。うちの紀美ったら迎えに行くって言ってるのに、自分で
帰ってきちゃったのよ。それも随分遅い時間に、まったくどうしたらいいのか……」
その姿と声からは少し憔悴したような雰囲気があった。ところどころ化粧に乱れがある。無理もない、子供が半日行方不明だったのだから。
「そうですか、私もついて行ければよかったんですが断られてしまって。それと紀美さんはどうしてい
ますか? 昨日様子が変だったので……」
困ったように紀美の母は頬に手を当てる。
「一応ね。今日は塾には車で送ったからいいんだけど。昨日あれから一言もしゃべらなくてね。遅くに帰ってきて、理由も言わないのよ」
「そうですか」
正直、あんなことがあった後に顔を合わせるのは私にしても怖かった。それでも親友のことだし、心配だから来たのだ。
「美由紀ちゃんには何か言ってるかと思ったけど、そうでもないみたいね。ごめんね。折角来てくれたのに」
「いえ、私の方こそもしかしたら塾に行かなかったのをきつく言い過ぎたのかもしれません」
紀美の母に宥められながら、別れの挨拶もそこそこに紀美の家を後にした。
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