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「ごめん、トイレ行ってた。待った?」
紀美だった。私の優一への視線を無視するように、腕に絡みつく。
「なに? あの男」
大きな目で、私を咎めるように紀美が問いただす。絡みついた手に力がこもって少し痛かった。
「ああ……。ただの従兄弟」
「ふぅん」
納得していない様子を見せながらも、私の腕を握る手を強めて、
「裏切っちゃ嫌だからね」
私の瞳を覗き込んで紀美は言った。大きな瞳に私を映し出す。その中の私は紀美の言葉に狼狽えている。
「裏切る? 何を?」
私は意味が分からなくて聞き返した。
でも、紀美は聞こえなかったようにニッコリと微笑むと、
「遅くなると怒られるから、帰ろう」
と言って、私の指に自分の指を重ねた。
「そうだね。帰ろう」
優一の消えた道を名残惜しく視線を流し、家路にと歩み始めた。
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