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第二話 鶏晨(けいしん)
「ですので、皆さんは学生らしい夏休みを……」
白髪交じりの担任の先生が教壇で、夏休みの注意事項を話している。今日は聖花ノ台学園高等部の一学期終業式だ。教室では夏休みのしおりと宿題が配られていた。
「はい、これも後ろに回して」
前の席に座っている、中学部から一緒の紀美からプリント用紙を受け取ると、私は自分の分を抜いて後ろに回した。
「くれぐれも、危険なことをしないように。いいですか?」
「「「はーい」」」
クラス中から気の抜けた返事が返ってくる。
担任の先生はそれを確認すると、満足したように「よろしい」とだけ言い。後は学級委員長に任せて教室を後にした。それを確認すると、一斉に歓声があがった。中には夏休み中に髪の毛を染めると宣言する者もいた。
そんなクラスメイトを尻目に、紀美が話しかけてきた。
「高等部になっても読書感想文って書くのね。だるいなぁ」
肩までのボブヘアの髪を撫でながら、紀美が美由紀に向かってぼやく。
「しょうがないよ。出された物はやらないとね」
紀美とお揃いの白いブラウスの制服を着た私は、縁のない丸みのある眼鏡をかけ直し、プリントに書かれている宿題の内容を確認する。
はらりとプリント用紙に落ちるロングのストレートヘアを、少し邪魔に思い耳にかける。視線を宿題一覧に落とし、夏休み中の計画を頭の中で構築し始めた。
「ねぇ、美由紀。夏休みどこか行く予定あるの?」
「うちはないなぁ。せいぜい近所のショッピングモールぐらいじゃないかな」
「じゃさ、旅行行かない? 二人で!」
紀美のきらきらした瞳を見返して、はぁとため息を吐く。
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