第二話 鶏晨(けいしん)

3/6
123人が本棚に入れています
本棚に追加
/261ページ
「待ってよ~」 「急がないと閉まっちゃうでしょう」  市の図書館の閉館時間は十七時半。今現在十六時四十分。早足で歩いて十五分。なんとか返却と貸し出しに間に合うといったところ。 「速く歩かないと置いてくよ」  既に十数メートル後ろの紀美に声をかける。 「やだって、一人にしないでよ」  学校の玄関口でやっと追いついてきた紀美が腕に絡みつく。  私は同性愛者ではない。でも、女子校にいると女友達がどうしても距離感が近くなる。  周囲にいる学生も、そんな風景は見慣れているのか、目に留めることもない。 「ほら、早く」  先に靴を履き終わると、紀美を促す。 「待ってってば、靴のかかと潰れちゃう」  片足で立ちながら紀美は靴は靴を履いている。荷物を置いてから履けばいいものを、持ったままだからバランスが取れていない。  何をやるにしても紀美はトロい。それをフォローするのが美由紀の役目のようになっていた。そんな様子が遠目にはかわいく見えるのか、紀美は他校の男子生徒に人気がある。そんなことで嫉妬したりはしないが、年頃の女子として複雑な気分になることもあった。  でも紀美には感謝している。携帯を持っていないから浮き気味な私の側に居てくれるから、クラスになじめているというのもある。 「お待たせ」 「うん」  紀美は当然のように指を絡めて手を握ってくる。  夏の暑さの中でも変えようとしないその仕草から、手のひらの温かさを感じ私は諦めて歩を進めた。
/261ページ

最初のコメントを投稿しよう!