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「待ってよ~」
「急がないと閉まっちゃうでしょう」
市の図書館の閉館時間は十七時半。今現在十六時四十分。早足で歩いて十五分。なんとか返却と貸し出しに間に合うといったところ。
「速く歩かないと置いてくよ」
既に十数メートル後ろの紀美に声をかける。
「やだって、一人にしないでよ」
学校の玄関口でやっと追いついてきた紀美が腕に絡みつく。
私は同性愛者ではない。でも、女子校にいると女友達がどうしても距離感が近くなる。
周囲にいる学生も、そんな風景は見慣れているのか、目に留めることもない。
「ほら、早く」
先に靴を履き終わると、紀美を促す。
「待ってってば、靴のかかと潰れちゃう」
片足で立ちながら紀美は靴は靴を履いている。荷物を置いてから履けばいいものを、持ったままだからバランスが取れていない。
何をやるにしても紀美はトロい。それをフォローするのが美由紀の役目のようになっていた。そんな様子が遠目にはかわいく見えるのか、紀美は他校の男子生徒に人気がある。そんなことで嫉妬したりはしないが、年頃の女子として複雑な気分になることもあった。
でも紀美には感謝している。携帯を持っていないから浮き気味な私の側に居てくれるから、クラスになじめているというのもある。
「お待たせ」
「うん」
紀美は当然のように指を絡めて手を握ってくる。
夏の暑さの中でも変えようとしないその仕草から、手のひらの温かさを感じ私は諦めて歩を進めた。
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