123人が本棚に入れています
本棚に追加
/261ページ
私には紀美より以前にキスをしたことがある。とは言っても子供のしたことだから軽いフレンチキスだ。
それは優一との思い出でもあり、父が怒りを露わにした瞬間のことでもある。
ただ、あれほどの怒りを何故父はぶつけてきたのだろう。
理由は分からないが、父の言うとおりに女子校に進学し、優一と会う機会は無くなった。
だが、図書館という公共の場所で、偶然にも再会してしまった。自分の意志ではないとしても、心が揺り動かされたのは事実だ。
その再会は淡い初恋を、大人の情念へと変化させつつあった。
もしかしたら、それは源氏物語を読んだせいかもしれない。今まで感じなかった苦しい思いを、光源氏と共に感じ取ったのだろうか。
大人になるというのは、苦しいことなのだと私は思った。
最初のコメントを投稿しよう!