第四話 接点

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 溜息をつき、両手を目一杯天井に伸ばし、優一のことを頭から追い出そうとした。自分が考えても解決しないことは考えすぎない方がいい。  思考を変えて考えを追い出すために読書することにした。源氏物語を読むべく、机に置いたエコバックの中を開く。  中から一巻を取り出して、ベットにうつ伏せになってページをめくる。  序盤の主人公の光源氏は、丁度美由紀と同じ歳だった。そういう意味で高校生になってから読むのというのは、案外良かったのかもしれない。  光源氏が年上で経験豊富な人から話を聞かされているところでは、少々態度が悪く見えるが、身分を考慮すればそういうものなのだろうか? と当時の身分制度に思いを馳せて読んだ。 「うーん。ちょっとひどくない?」  一巻の最後の方まで読んだところの『末摘花(すえつむはな)』は、光源氏と契りを交わしても、前の人と比べてなんだか大事にされていない気がした。朝になって、顔を見たら美人じゃ無かったって言っても、それまで文を交わしてずっと好きだったのならそれでいいじゃない。と思うのは勝手なことなんだろうか。  ふと、自分の顔をつねってみる。私には男性と付き合った経験は無い。芸能人のように美しい外見をしているとは思えない。それでも、「かわいい」とあの時言ってくれた優一の顔を思い出す。  あの時にそっと触れた唇の感触は、とても柔らかかった。  その時、父に見つかって激怒させてしまい。二度と会うことを許されなくなった。両者の親でどのような話し合いがされたのか分からなかったが。それ以来、我が家で親戚の話が出ることは無かった。  読み終わった一巻を閉じようとしたとき、後ろの出版社や印刷所などが書かれているページに、薄い何かが挟まっていることに気がついた。  何だろうとページを開くと、レシート状の薄い紙が出てきた。
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