酒飲まなきゃやってらんねぇわ

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酒飲まなきゃやってらんねぇわ

 さて、どうしたものか。    一口酒を飲む。冷たいアルコールを飲み干すと喉を焼いて体内へ巡っていく。炭酸の刺激が弱まったそれを店員に差し出して、代わりにもっと強い酒を頼んだ。素面でこんなもん見ていられるか、と酒の力を借りることにした。  そのまま、ちらりと僅かに視線を向ける。  視線の先では、ライが希望(のぞみ)の肩に腕を回していた。本来三人掛けのソファに二人で座っているのだからもっと間を開けてもいいのに、相変わらず距離感がえげつない。希望からくっついていくのは分かる。それは許そう。だがどう見ても、距離を詰めていったのはライだった。気付かなければよかった、と心底後悔している。そういえば昔から元恋人のユキにもよく触れていて、俺のものだ、という無言の主張が激しい男だったような気がするが、それも思い出したくなかったのですぐさま掻き消した。  二人は柔らかいソファにゆったりと座っているが、希望はほとんどライの腕置きになっているような状態だ。重くないのだろうか、邪魔じゃないのか、と様子を伺うが、希望はアルコールのせいかぽやん、として少し楽しそうな笑みを浮かべているだけだった。幸せそうで何よりだ。  そんな希望を、ライが抱き寄せて、希望の耳元で何か喋る。希望も耳を寄せるようにして聞いていたが、突然目が覚めたようにパッと目を見開き、ライを見つめた。少し見つめ合って間を空くが、希望がふふっ、と笑い出す。くすくす、と小さく笑っている希望はいつもより幼く見えた。ライも心なしか笑っているようだ。珍しく嘲りや怒り、邪気を含まない笑みは、むしろ俺には恐ろしく、ぞっとするものでしかない。  今度は希望がライの耳元に唇を寄せて、手を添えて、何かこそこそと喋っている。よく見れば、ライも希望側に少し寄せて、体を傾けていた。これ以上縮まらないと思っていた二人の距離が一層縮まる。それに合わせて、ライの手が希望の腰に回っているのに気づいた俺の洞察力、何で酒で鈍ってないのかと俺自身に問い詰めてやりたい。  少し希望が喋った後、ふはっ、とライが笑った。珍しく、眉間を押さえて、クックック、と喉の奥で抑え気味に笑うのを、希望がにこにことしながら見つめている。  ライを見つめたまま、希望は持っていたグラスを口元に運んだが、そこでやっと空になっていることに気づいたようだ。からん、と僅かに溶け残った氷をじぃっと見ている。氷は照明の光をキラキラと反射していたが、希望の潤んだ瞳も負けずにキラキラと煌めいていた。涙の膜がいつもよりも厚いのは、アルコールのせいだろう。希望はそんなに強くない。そもそも、飲んじゃダメだろうお子様が。隣に狼よりも危ないケダモノいるんだぞ。  希望はテーブルの向こう側に酒瓶を見つけて立ち上がろうとする。その身体が、かくんっと止まった。ライが腕を掴んで引き留めて、そのままぐいっと引っ張って希望を座らせる。代わりに水の入ったグラスを差し出した。  希望はむぅっとしてそっぽを向いたが、そのうっすらピンク色に染まった頬にひんやりとした冷たいグラスを当てると、ビクッと震えて、振り向いた。ライはそれをにやにやと笑って眺めて、水を再度希望へと差し出している。希望はちょっとだけ笑って、素直に受け取って飲み始めた。ライは頬杖を付いてそれをじいっと眺めている。希望に穴が開きそうだが、大丈夫か。  希望が飲み終わって、ライが自分を見ていることに気づいた。きょとんと首を傾げる。今の希望は酔っているし、ぼんやりとした目をしていて、非常に無防備だ。潤んだ瞳が揺らめいて、じぃっとライを見つめ、不思議そうな顔をしている。  そんな希望に引き寄せられるように、ライがゆっくり近付いていく。  そのまま唇を重ねてキスをして、ライが希望に覆い被さるように倒れていった。    はい、アウト。教育的指導だバカ野郎。    恭介が立ち上がったのと同時に唯も立ち上がった。  二人が普通にいちゃつくこともあるんだ、ということはよくわかった。おめでとう希望。よかったな希望。  でも、完全に俺たちの存在を無きものにするのやめろや。ていうか、なに事に及ぼうとしてんだあいつ、マジでイカれてんのかあの外道。
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