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学生グループと別れた氷柱は一人帰路についていた。
「…………あれ、もしかして迷った?」
月明りすら届かない程、人工的な光が溢れているおかげで足元がおぼつかないという事はない。が、右を見ても左を見ても同じようなビルばかり。氷柱の様に建築物が極端に少ない山奥から来た者でなくても、少し栄えた都会の街並みに慣れていない者なら同じように来た道を見失っても何ら不思議はない、そんな道のりだった。
そもそも今向かっている方向さえ本当に来た道かどうかはっきりしていない。微かなを記憶を何とか蘇らせようと極力周囲を見渡し、見覚えのある景色を探し出そうとしていたところ。
「あ、あのコンビニの看板! 来るとき絶対見たわ。てことはやっぱこっちであってんじゃん流石あたし、可愛い上に記憶力も良いとは――――」
自覚のないところで少し不安になって来ていた少女だったが。ようやく自分の記憶と一致する風景にたどり着いた事で少し安心したのか、赤と緑がメインカラーで中央に数字が描いてあるデザインの看板の元まで駆け寄った彼女が見たものは。道路を挟んで反対側、十数メートルと離れていないその場所に全く同じデザインの看板を掲げたコンビニの存在だった。
「ふざけんなぁぁぁああああっ! なんでこんなド正面に全く同じ店が2つも建ってんのよ!? 自分の記憶が全くアテにならくなってきたじゃない!! つーかよく見たらこの道の先にも同じもんが何軒か建ってるのがこっからでも見える!」
ほんの一瞬天恵かとも思えたその看板への信頼感が既に自分を陥れる為の罠計略にしか思えなくなってきた少女は、腹いせとばかりに足元に転がる空き缶を力いっぱい蹴り飛ばした。
カッコーン、と心地いい音を鳴らしながら宙を舞うそれの行方を見ていた少女が小さく声を漏らす。視線の先には今まさにコンビニの自動ドアを抜け、ビニール袋を提げたいかにもガラの悪そうな男の頭上に向いていた。
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