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「はあはあ、ちょろちょろと逃げ回りやがって…………」
人工の光溢れる通りから一本横に逸れた薄暗い路地裏。飲食店から出たごみ袋やダンボール、什器などで溢れかえったその場所で怒りに震えるガラの悪い男が小柄な着物少女を追いつめていた。
「よくも人様の頭に空き缶ナイスシュートしてくれたなクソガキ。しかもご丁寧に半端に中身の入ってたおかげで、髪と上着から仄かに甘い香りが漂ってきやがる」
「まったくあんたのせいですっかり道に迷っちゃったじゃないの」
追いかけられるその前から帰り道は怪しかった気もするが、その事に関しては都合よく記憶から消去されてしまったようだ。
「で? こんな美少女をこんな薄暗い路地裏に追い込んで一体どうするつもりかしら?」
自分よりも一回り以上大柄な男と相対して尚、少女の気勢は衰える事が無かった。
「そうだな――――――お前が男ならボコボコにして指の一、二本へし折ってやるとこだが、幸いにも一応女みたいだしな。一度やってみたかった事もある、着物の帯を引っ張ってくるくる回すやつ」
「あーもしかしてこれって、貞操のピンチってやつかしら?」
「本当ならお前みたいなちんちくりんのボリューム不足は俺の趣味じゃねえけどよ。あんまり男を舐めてると痛い目見るって事を教えてやんねえと」
「さっきからちょいちょい引っかかるんだけど。誰のどこがボリューム不足か、ちょっと詳しく聞かせてもらいましょうか」
男の発言がどこかの地雷を踏んだのか。初雪の様に白い肌をした着物の少女、白山氷柱の表情にぴくりと青筋が浮かぶ。
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