『吸血秘書と探偵事務所』 昔話①雪女との出会い

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「ん………………? 急に寒気が………………」 季節にふさわしい半袖シャツに膝下の短パンという格好の男の肌が感じ取ったのは、冷気。真夏とはいえ今は深夜、本来なら大抵の生き物が寝静まる時刻。 太陽照りつける真昼では考えられない程冷えた風が吹く事もあるだろう。だがそれにも限度がある。 例えば、いくら深夜とはいえあと一週間もしない内に8月を迎えようとする時期に吐く息が白くなり、身体の末端がかじかんで震えだすなど常識的にあり得ない。 「あんまり人の多い所で目立っちゃ駄目だって昔から言われてきてんのよね。だから親切にも見逃してあげようとしてたのに、空き缶ぶつけられたくらいでこんな所までしつこく追いかけて来ちゃってさ」 周囲の気温が急激に下がるのと同時に、男の体温もそれと同様の速度で奪われていく。吐く息は白く、彼の意思とは無関係にがたがたと全身の震えが止まらない。 「なんだこれ――――どうなってんだよ?? おい!!」 両腕で己を抱きしめる様な形で摩擦により体温を保とうと試みるが、急激な気温の低下にとてもじゃないが追いつかない。 「よりにもよってこんな人目につかない所までついてきちゃった上に、癇に障る事まで口にする始末。ちょっと警戒心が薄いんじゃない?」 草履を履いた少女の足元からパキパキと何かが軋む様な音が響く。
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