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急激な温度の低下に耐えきれずにひび割れる窓ガラスの音かと思ったが、それだけではなかった。
老朽化した配管から漏れ出た排水が作る水溜まり。暗い路地裏にいくつか点在するそれが、少女に近い順から音を立てて薄氷へと変化していた
「ひっ――――!? なあおい、分かった! 降参だ! 俺が悪かったよ!」
路地裏に少女を追いつめていた筈の男はいつの間にか逆の立場に立たされている事に声を震わせる。
「残念だけどほんの少ーしだけ泣きを入れるのが遅かったわね。ま、時期が時期だし運よく朝まで生きてられたら朝日でちゃんと解凍されるんじゃない? どうでもいいけど」
最早立っていることさえままならなくなった男の肩を軽く叩くと、少女は振り返りもせず路地裏に背を向ける。
「こっちが謝ってあげてる内にその言葉が出てくればよかったのにね」
男の返事を待たずに少女はその場を後にする。
「お前は…………一言も…………詫びいれてねえ、だろ…………」
遠ざかっていくその小さな背中に、最後の力を振り絞っただろう男の掠れた言葉は届かなかった。
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