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そういって頭を掻くみぞれのスタイルは一般的に想像される大食いキャラのそれとは大きくかけ離れていた。すらりと伸びた健康的な手足、着物の上からでは分かりづらいがその下には適度に引き締まった肉体がある事を想像させる。
「それはそれで超羨ましいですよー。私なんか油断して食べ過ぎると直ぐ
太っちゃうから、お姉さんみたいなスタイルに憧れちゃいます!」
「まあ確かに男から見ても感心する程良い身体を――――――、いや待て今のは言葉が悪い! 違うからな? 良い身体って言うのはそういう意味じゃなくて良く鍛えられた肉体美を称賛したかった的な…………やっぱ毎日運動とかしてるのか?」
ジト目の視線が複数向けられるのを肌で感じた相一は即座に話題の舵を取り方向を変えようと試みる。
「いやいやそんな。実家の周りには何もなくて筋トレくらいしかやる事がなかっただけですから」
「そーよこんなやつ。食べたモノのカロリー全部乳に行ってるだけなんだから」
「こら氷柱、あんまお姉さんにそんな事言うもんじゃねえぞ。みぞれさんもお前を心配してわざわざ地元の方から来てくれたんだからな」
「探偵さん、良い事言ってる風な感じにしたいならその釘付けの視線を剥がす所から始めましょうか」
「おいおい詩織ちゃんそれじゃ俺が氷柱のお姉さんの実り豊かな胸をガン見してるみたいに聞こえるじゃないか」
「所長、誰も胸――――とは一言も言っていませんが」
「…………あー」
「――――――バッカじゃないの」
いつもと変わらぬ事務所長の姿に同じく変わらぬ呆れ顔を向ける事務所の面々。その中で唯一人、普段とは少し変わった反応見せる人物がいた。他所の女性(特に巨乳の)に相一が見とれたり鼻の下を伸ばしていると強めの勢いで突っかかってくる氷柱が、妙に大人しい。
「あたしちょっと出かけてくるから」
席を立ち有無を言わさぬ雰囲気を出しながら事務所の玄関へ向かう氷柱。
「おーいどこいくんだ?」
「別にどこでもいいでしょ」
相一の言葉に返事はするもののその足を止める事は無かった。
「氷柱さん、出かけるのなら夕飯の買い出しをお願いできますか」
「なんであたしが――――――」
「――――――――――お願いできますか?」
「…………あーもう分かったわよ!」
静かな圧力に押し切られ渋々といった風に理亜からメモとお使い用の財布を受け取る。そしてその内容に軽く目を通していた氷柱が訝しげな反応を見せた。
「これ、何かいつもより多くない?」
「それは勿論、今日はお客様もいらっしゃいますから。――――と、確認がまだでしたね。良ければうちで夕食をご用意しますが如何でしょうか?」
「え? 良いんですか!? いやでも急におしかけてその上夕食まで頂くのは…………」
「お気になさらず。一人や二人増えるのは日常茶飯事ですので」
「あの、それじゃあご迷惑でなければ…………頂いても――――――」
「ちょっーと待ちなさいよ! 何ウチで夕飯食べてく流れになってんの! ご迷惑に決まってんでしょ、用が済んだんだからさっさと帰りなさいよ!」
「もー氷柱ちゃんってば、つれない事言うんだから。お姉ちゃんはね、人の厚意は遠慮無く受け取る様にしてるの。こうして折角ごちそうしてくれるって言ってくれてるんだからありがたく頂くのが礼儀ってものだと…………」
「もっともらしい言ってるけど単にご飯が食べたいだけでしょーが!」
「そうです、私はご飯が食べたいだけです」
「こいつ開き直りやがった!」
「ほらほら氷柱さん、出かけるなら速く行かないと。あなたが帰らないと皆さんお腹を空かせて待つ事になるんですから」
「――――――ああもう! 分かったわよ、行くわよ行けばいいんでしょ。じゃあ、行ってきます!!」
バアンと叩きつけるように玄関の扉を閉め少女は事務所を後にした。
「申し訳ありません、騒がしくて」
「いえいえ。私もあんなわちゃわちゃした氷柱ちゃんを見たのは初めてだったんで新鮮な気分でしたよ」
「氷柱さんは家でもあんな感じではないんですか?」
少し意外そうな表情を見せる璃亜。
「私に冷たいのはまあ相変わらずなんですけど。うちにいた時はもっと冷めた感じだったというか、あんな風に感情を表に出すことなんて全然無かったんですよ。それがしばらく見ない内にすっかり変わっちゃって」
「重ね重ね申し訳ありません、多分おそらくきっとまず間違いなくうちの所長の影響でしょう。都合のいい時だけ大人ぶるくせに、基本的には大人げない言動が目立つうちの所長の」
「もしかしなくても今俺馬鹿にされてるな」
「あ、流石にそれくらいは探偵さんでも分かるんですね」
「詩織ちゃんもこの一年で随分変わっちまったよな…………」
「日頃の…………行いは…………こういう所に…………出ますから…………」
「あれ、千里さん? お前までそっち側に立っちゃったら俺の味方いなくない?」
「ふふっ」
所長に対するソフトな罵倒がすらすらと流れ出る様を隣で聞いていたみぞれは、思わずといった風に小さく吹き出す。
「あの子が変わった理由が何となく分かった気がします」
「違うからな!? 普段はもっとこう探偵事務所の出来る所長っぽい威厳に溢れた――――――」
「いやぁ探偵さんそれはちょっと無理があり過ぎるんじゃ」
「シャラップ女子高生、俺は今みぞれさんと話してんの! このままだと俺の評価が下がりっぱなしで…………」
「そんなことないですよ。威厳…………がどうとかはともかく、相一さんが皆さんから慕われているのは見ていれば分かります。絶対自分では認めないだろうけど多分氷柱ちゃんも。私にあんな表情見せてくれた事がないのが少し寂しい気もしますけど」
自分の知らぬ所で妹が変わっている事に嬉しさとほんの少しの寂しさを含んだ顔で小さく笑う。
「良かったらあの子がここに来てからの話を聞かせて下さい。本人がいたらきっと恥ずかしがって邪魔されると思いますから」
「勿論いいよ。氷柱もしばらく帰ってこないだろうし、あいつがウチに――――天柳探偵事務所に初めてやってきたその日の事から順にゆっくりとな」
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