『吸血秘書と探偵事務所』 昔話①雪女との出会い

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「どうも初めまして。妹がお世話になってます、この子の姉の白山みぞれです。あとこれ、良ければ皆さんで召し上がってください」 腰辺りまで伸びた青白い髪に雪の様な白い肌。白と水色を基調とした涼し気なデザインの着物を纏ったその娘は事務所の面々に軽く一礼し、懐から菓子折りを取り出した。 「これはどうもご丁寧に」 璃亜はそれを受けとると人数分の飲物を用意するためキッチンに向かう。 相一を初めとする初対面の皆が軽い自己紹介を済ませ、改めて白山氷柱、みぞれの両姉妹を見比べる。 「つうかまじでそっくりだな二人共。顔だけ見たら区別つかねえんじゃねえか」 「あはは、良く言われます。迷った時は身長か髪型、若しくはここの大きさを比べて貰えば…………」 ダン、と足裏で床を叩く音。その出処は自身の胸元を強調する様に両手で持ち上げていた姉を睨みつける白山氷柱だ。 「何にしに来たのよ、お姉ちゃん」 気に入らない人物を警戒する動物の様な唸り声を上げながら自身の姉に詰め寄る青白ツインテールの少女。 「何しにって…………家を飛び出していった妹が一年近くも連絡を寄こさなきゃ心配して当然でしょ」 みぞれの諭すような口ぶりに氷柱意外の者たちは感心した様な声を上げた。 「なんだよお前の姉ちゃんだって言うからどんなじゃじゃ馬娘かと内心冷や冷やしてたんだけど、中々どうして妹思いの良い姉ちゃんじゃねえか」 「所長さん…………それは…………失礼なのでは…………」 「いえいえ、この子の普段の振る舞いを近くで見られていたらそんな風なイメージがついてても仕方ないですよ」 「大人だ………………、大人のお姉さんだ………………ッ!!」 氷柱の実の姉が常識人だったという事実が余程衝撃だったのか、驚愕の表情で固まったままの詩織を押しのける形で氷柱本人が割って入ってくる。 「好き勝手言ってんじゃないわよ! だいたいアンタらが知らないだけで、こいつだって大概な所あるんだからね!!」 「もうこの娘ったら、まだあの事を根に持ってるのかしら」 「あの事って?」 「この娘が里を出ていった一年前の事なんだけど。この娘の誕生日ケーキを勝手に食べちゃった事があってね…………。ほら私達の地元、超が三つくらいつくほど田舎なのよね。ケーキなんて小洒落た洋菓子それこそ年に一回食べられるかどうかって所だから氷柱ちゃんの誕生日ケーキを前にしてつい我慢できなくて…………」 「食べちゃったんですか?」 「あはは、お恥ずかしい事に…………」 「いやでもケーキ一個食われたくらいで実の姉をそんなに毛嫌いしなくてもいいんじゃないか」 「一個なら、ね」 「え?」 「こいつが私のケーキを奪ったのはその年だけじゃない。その前の年もその前の年もさらにその前も、あたしが物心ついてから誕生日に出されたケーキを一つでも口にした記憶が一切無いんだけど!」 「あー、それは…………気の毒に?」 ひとりでにヒートアップしていく氷柱と目を合わせるのは得策ではないと判断した相一は氷柱の姉、みぞれの様子を伺ってみる。 「お姉さん、実は食いしん坊キャラなの?」 「詩織ちゃん…………それは…………直球過ぎ…………」 「いやー、あははは…………ほんとにお恥ずかしい」
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