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その男――道明寺は大学時代のクラスメートで、当時、超常現象研究会という怪しいサークルを主宰していた。UFOとの交信とかツチノコを始めとするUMA(未確認生物)の探索とかをやっていたようだ。もっとも、本気なのは本人だけで、周りのメンバーは遊び半分に参加していただけだから、彼の卒業とともにサークルは消滅したと聞いた。そのころの僕は、彼の活動をシニカルに見ていた大多数の内の一人だったが、今の僕は彼に頼るしかない。
一昨日、道明寺と連絡を取るために、超常現象研究会の元メンバーに電話した。卒業してからも元メンバーたちは年に一回程は集まっているらしい。集まると、道明寺はUMAの探索旅行に行かないかと皆を誘うのだが、賛同する者はいないと言う。「皆、仕事の方に関心が移ってるんだ。やつの遊びに付き合ってられないよ」そう言って、元メンバーは道明寺の電話番号を教えてくれた。
都心の喫茶店に誘ったけれど、道明寺は自分のアパートから近い喫茶店で会いたいと言った。全国チェーンのお洒落な喫茶店は落ち着かないそうだ。
マスターがコーヒーをテーブルに置いて立ち去ると、僕は今体験している不思議な物語を話し始めた。
「幽霊か、面白いな。俺なんか色んな心霊スポットに行ってみたけど、一度も幽霊に会えなかったのに、向こうから会いに来てくれるとは羨ましい」
話を聞き終えると、道明寺は自分にも幽霊が見えるのではないかと僕の背後に目を遣った。
「そもそも、幽霊がなぜ源氏と平氏なんだ」
僕はずっと疑問に思っていたことを口にした。
「平氏と源氏がライバルで、源氏が平氏を滅ぼしたことは知ってるな」
「ああ、それぐらいは知っている」
「滅ぼされた平氏は怨霊となったんだ。耳なし芳一の話、聞いたことあるだろ」
「あれは小泉八雲の『怪談』の中の話だろう。作り話だ」
「いや、そうとも言い切れない。八雲は日本各地に伝わる伝説を小説にしたんだ。そのような伝説が生まれた背景には、実際に平氏の霊を見た者がいたからじゃないか?」
そんなこと言えば、雪女もムジナも存在することになる、と突っ込みたくなった。しかし実際、僕は源氏と平氏の霊を見ているのだから、あながち間違っていないのかも知れない。
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