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「まあいい、平氏の霊は分かった。源氏の方はどうだ」
「平氏が滅んで源頼朝が鎌倉幕府の初代将軍になる。しかし、鎌倉幕府の源氏は三代で断絶して、後は北条氏が実権を握るんだ」
「うん。日本史で習った」
「頼朝は落馬による急死。後を継いだ頼家は出家させられた後に暗殺。三代目の実朝は頼家の子の公暁に殺される。というわけで、源氏は絶えるが、いずれの死も疑惑だらけで北条氏の陰謀だと考えられている」
「ふむ、一番得をするのは北条だからな」
「その北条氏は平氏の子孫だという説がある。だとすれば、今度は源氏が平氏に滅ぼされたことになり、平氏に恨みを持つ源氏も怨霊となった訳だ。」
僕は黙って相槌を打つ。北条氏が平氏の系統だとは知らなかった。
「だから、源氏と平氏の霊は成仏できずにこの世をさ迷ってるんだ」
テレビに出てくるいかがわしい自称霊能者の解説を聞いているようだが、僕としては他に思いつくこともないので、一応納得しておくことにする。
「ところで、もう一つ聞きたいことがあるんだ」
「何だ」
「俺の会社では、平氏の霊が憑いてる管理職が多いんだ。それはどうしてなんだろう。単なる偶然かなあ」
僕の会社でも背後に幽霊を従えている者がいる。自分もそうなので、どうしても他人に憑いている幽霊には関心をもつ。だから、源氏と平氏の霊が誰に憑いているのか観察していたが、僕は霊の憑き方にある傾向があるのを発見した。課長以上、次長や部長などの管理職に平氏の霊が憑いている者が多いのだ。と言っても、僕が働いているような現場に社長や副社長が来ることはないので、彼らのことは分からないけれど。
「管理職に平氏の霊が多いか……」
道明寺は腕組みをして、黙り込んだ。目は宙の一点を見つめている。どうやら、思索にふけっているようだ。
そんな彼の邪魔をしないように、僕が冷めたコーヒーをちびちび飲んでいると、
「こう言うことじゃないか」
突然道明寺は口を開いた。
「源氏と平氏の霊に取り憑かれた者は、同じ氏同士だと仲間意識を持ち、違う氏同士だと敵愾心を持つとしたらどうだ」
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