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それは台風のせいでバカみたいな大雨が降りつけた真夏の夜の事だった。
いつもの街道が土砂崩れで封鎖されてしまっていたので随分迂回して峠の山道を通らざるを得なかった。
バイザーを叩く滴のせいで視界は悪いし、走り慣れない細い道の両脇から黒く覆う樹木の影がやたら気味悪い。誰もいない暗い山道をバイクで走ると言うのは決して気持ちの良いものではなかった。
昼間ははうだるような暑さだってのに急に真っ黒な雷雲と滝の様な土砂降りですっかり気温が下がり指先がかじかんでいる。バチバチとやたら攻撃的な雨音と不機嫌そうなエンジン音以外何も聞こえない。
早く部屋に戻ってシャワーでも浴びて落ち着きたいものだ。そんな気持ちがいつもよりも速度を上げさせる。
ライトに照らされる路面に狂ったように跳ねる雨が何故か不安を煽る。
ぐにゃりぐにゃりと意識を揺さぶろうとする様なカーブを誘われるように攻め気味の速度でこなす。
なぜか頭の後ろがじんじんする。何かまずいのでは…?いや、早く帰ってひとっ風呂浴びたい。暗さとライトに絞られたモノクロの視界に踊る無数の軌跡にだんだんと考える力を奪われつつあった時だった。
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