955人が本棚に入れています
本棚に追加
「いや、個人的な問題だ。そろそろ身を固めてはどうかと言われてな……」
肩を落としてまた溜め息を吐くレスト。言っている意味が直ぐには理解出来ずに首を傾げたクレエは、チラリとこちらを見たレストと目が合ってようやく意味がわかった。
「えっ!? レスト、結婚すんの!?」
驚いて思わず立ち上がったクレエにつられてレストも立ち上がる。
「いやいや、まだ決まった訳では……ただ、その手の話は時々あったのだが騎士として未熟なのに所帯を持つには早いと断ってきたんだ。だけど今回は少し断りづらくてな……」
「断りづらいって、何でだよ?」
レストの性格は騎士だけあってしっかりしている。戦場において優柔不断ではいられない。早い決断を求められる戦場では常に自らの意思ははっきりしておかねば。
「……話を持ちかけてきたのが国王と宰相なんだ」
「は……はあっ!?」
国の一番上に立つ人間から言われたら流石に簡単には嫌だとは言えない。国王も宰相もレストを気に入っている。政治的なものではなく、心からレストに家族という幸せを与えたいのだろう。その気持ちがわかっているからこそ余計に断りづらいのだ。
「今は父が治めている北の領地もいつかはオレが継がなくてはいけないからな。その時に妻と子がいれば安泰だろうと王も乗り気なんだ……」
レストはまた溜め息を吐いた。
彼ほどの獣人ともなれば見合いの話もたくさんあるだろうとクレエも予想はしていた。しかし当の本人にその気がないのも分かっていた。今は騎士として腕を磨き、隊長としての責務を果たすことこそレストの一番望んでいることだからだ。
けれどそれは断れる相手だったから出来たこと。一国の主から直々に話を持ちかけられたらレストでなくても断ることは出来ない。
――それにレストはαだ。その血を残して一族を繋いでいかねばならない。
最初のコメントを投稿しよう!