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今やこの国は獣人のα性は稀少だ。獣人の数も減ってきている。若く健康なうちに子孫を残しておくのはα性で産まれた獣人の使命になっている。
「相手……どんな人なんだ?」
何故か胸が苦しくなってクレエは手を胸にやってぎゅっと握った。
「聞いてはいない。ただ、きっと気に入るはずだと自信満々で言われた」
「そう、か……」
王が薦める相手なら間違いはないだろう。貴族の娘か、王家の親戚か、レストと並んでも劣らない完璧な相手に違いない。
「しかしなぁ……結婚相手くらい自分で選びたいんだがな……」
「……贅沢な話だ」
レストの身分で自由に相手が選べるとは思えない。レストの一族や、騎士団や王家。全てがレストに期待をしているのだから。
「だが気持ちがなければ相手にも失礼だろう?」
「じゃあ、レストはどんな相手ならいいんだよ」
「ふむ……考えた事はなかったが、だがそれなら……」
暫し考えてからレストはクレエを見て、フッと笑った。
「お前のような一緒にいて楽しくて、気の休まる相手ならいいかもしれんな」
「なっ……バカかっ!! バカだろっ!! ホント、バカだっ!!」
レストにとってそれは深い意味もない、本気で言った訳ではない言葉だと頭の中では分かっているのにクレエは動揺して何度も「バカ」を繰り返した。
レストは困った顔で、それでも笑顔だった。
「いっその事、番になるというのはどうだ? クレエはΩなのだから問題はないだろう?」
「なっ……何言ってんだよ!! 冗談言うにしても質が悪い! そんな簡単に言うな!!」
自分がΩであることが最大のコンプレックスなクレエはレストの言葉に怒りを覚えた。そして少しだけ傷付いた。
簡単に「番になる」と言えるのはクレエを本気で番にするつもりがないから、いつもの他愛ない会話のうちの一つだからだ。
自分はレストにそういう相手として見られていないのだと遠回しに拒まれた気がしてその場にいるのが辛くなったクレエは、レストが呼ぶのも無視してそこを去った。
クレエの背中を見送りながらレストは今日一番の深い溜め息を吐いた。
「冗談のつもりはないんだがな……」
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