episode253 挑発

30/30

31人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
「ここじゃなんだね」 周りを見回し言う彼に 「いや、ここで構わないよ」 僕は答えて肩をすくめる。 綺麗な顔に不意に不安の色が浮かんだ。 彼は勘がいいから——。 「はっきり言うと僕がね――」 僕は硬直した九条さんの耳に唇を寄せて囁いた。 「僕が愛しているのはあなたなの」 「ああ……」 一瞬のうちに緊張が解けた肩に手をかけて僕は続けた。 「でもね九条さん、僕があなた以外を求めるのはあなたの所為だよ」 「どうして……」 「あなたの愛が足りないからだ」 再び硬直した彼の身体がすこぶる愛おしい。 だけど僕は——。 「どうすればいいか考えて。もっと僕を満足させてよ。それだけ」 わざと突き放してその場を離れた。 こうして本能のまま両者を挑発した。 何が起こるかって? それはこの後のお楽しみさ——。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加