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「嘘だろ」
「嘘じゃないわ。天然なのよ」
兄妹たちの反応は思いのほか辛辣だった。
「まあまあ。正直この家にはあまりにも邪念が多すぎて——僕もこんなのは初めてですよ」
キラが辺りを見渡しながら
申し訳なさそうに声を潜める。
「こんな立派なお屋敷も初めてですけどね」
革張りのソファーセットに
テーブルには大輪の百合を活けたガレの花瓶。
見た目だけは——完璧に美しい応接間だ。
それは僕たち兄妹にも言えることかもしれないけれど。
「悪いが生まれた時からここにいるからよく分からん」
征司はそう言うと退屈そうに脚を組み
ソファーの肘掛に頬杖をついた。
「屋敷も邪念も――それこそ私たちにとってはすべてが日常なのよ」
「ええ、分かります」
貴恵の言葉にキラは深く頷いた。
それから——。
「ひとつお教えしましょう。あなたがたのいう日常——均衡が保たれているのは彼がこの家にいるからです」
言うと恭しく僕を指し示した。
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