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廊下の突き当り。
角部屋の前に立つと両開きの扉を躊躇なく開く。
中は朝の訪れを知らない。
淫靡で重厚な王様のお城だ。
臙脂色の絨毯の柔らかい毛足を裸足で踏みながら
僕は物色するように部屋の中をうろつく。
「……ん?」
耳を澄ますとシャワールームで音がした。
朝の支度の前にシャワーか。
願ったり叶ったりだ。
猫のように足音を忍ばせ僕はシャワールームに向かう。
ま、近づけば気配で悟られるのは必至だ。
それでもかまわない。
シャワールームのドアノブを捻り
薄暗い洗面台の前でガウンを脱いだ。
鎖骨が浮くほど細い裸体が鏡一面に晒される。
「誰だ?」
案の定気配を感じて征司はシャワーを止めた。
「中川か?」
湯気で曇ったシャワールームの向こうから
耳心地の良い低い声が問う。
「いいえ、ハズレ」
僕は鏡の前で女みたいにしなをつくると
半開きの赤い唇を撫でながらからかうように笑った。
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