episode253 挑発

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廊下の突き当り。 角部屋の前に立つと両開きの扉を躊躇なく開く。 中は朝の訪れを知らない。 淫靡で重厚な王様のお城だ。 臙脂色の絨毯の柔らかい毛足を裸足で踏みながら 僕は物色するように部屋の中をうろつく。 「……ん?」 耳を澄ますとシャワールームで音がした。 朝の支度の前にシャワーか。 願ったり叶ったりだ。 猫のように足音を忍ばせ僕はシャワールームに向かう。 ま、近づけば気配で悟られるのは必至だ。 それでもかまわない。 シャワールームのドアノブを捻り 薄暗い洗面台の前でガウンを脱いだ。 鎖骨が浮くほど細い裸体が鏡一面に晒される。 「誰だ?」 案の定気配を感じて征司はシャワーを止めた。 「中川か?」 湯気で曇ったシャワールームの向こうから 耳心地の良い低い声が問う。 「いいえ、ハズレ」 僕は鏡の前で女みたいにしなをつくると 半開きの赤い唇を撫でながらからかうように笑った。
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