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「——残念」
僕のお利口な彼氏は
もうすでに出かけた後だった。
がむしゃらに働かなくたっていい立場なのに朝寝坊すらしないんだ。
もぬけの殻になった部屋には
きちんと畳まれた寝間着がベッドの上に置いてあった。
「んもう、九条さんてば――」
僕はそれを抱き彼の残り香を吸い込む。
細胞が一つ一つが恋をしたばかりみたいに弾ける。
ただ自分の感じるまま——。
すでに征司のことは胸にすっぽり収まっていたし。
僕の心に迷いはなかった。
ふと母はこんな気持ちだったのかと思う。
悪女の振る舞いをしていても少女のように悪気はなかった。
許されるとか許されないとかそんな概念すらない。
自分はただ男に愛されるのみと——知っていたんだ。
それを宿命のように受け入れて生きた。
「ふうん……」
一通りの考察を終えると
僕はベッドサイドの受話器に手を伸ばした。
そしてベッドに大の字になると部屋の主の携帯を鳴らした。
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