episode253 挑発

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お昼の時間に九条さんに会いに行く約束をした。 拓海が貴恵と貴恵の子の一件で戦力外となっている今。 やはり九条家のホテル経営は彼の肩にかかっていた。 出会った頃から彼は生粋のサラブレッドだったけれど。 「こんなところまで来てもらってすまないね」 いざ老舗ホテルの若き総支配人として 目の前に現れた九条敬は——。 「いいの。あなたの働くところが見られただけで来た甲斐あったよ」 「またそんな。殊勝な君は一番怖い」 「可愛い、支配人のピン」 凛として美しくどこの国のゲストよりゴージャスだ。 「それで?急ぎの話があって来たんだろ?」 ロビー客の大半が自分に見惚れていることにも気づかず。 彼はただ僕だけにとびきりの笑顔を見せて尋ねる。 「そうなんだ。実は例の除霊が上手くいったみたいなの」 「君のお母様が原因だったって言うあれかい?」 眉唾物の話を彼ははなから信じていないみたいだ。 「そう。今朝起きたら僕さ、生まれ変わったみたいで」 「それで——気分はいいの?」 それでもロビーを行き交う人波から守るように さりげなく僕の腕を引きながら九条さんは尋ねた。 「まあね。僕の中でクリアになったことがある――それで来たんだ」
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