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お昼の時間に九条さんに会いに行く約束をした。
拓海が貴恵と貴恵の子の一件で戦力外となっている今。
やはり九条家のホテル経営は彼の肩にかかっていた。
出会った頃から彼は生粋のサラブレッドだったけれど。
「こんなところまで来てもらってすまないね」
いざ老舗ホテルの若き総支配人として
目の前に現れた九条敬は——。
「いいの。あなたの働くところが見られただけで来た甲斐あったよ」
「またそんな。殊勝な君は一番怖い」
「可愛い、支配人のピン」
凛として美しくどこの国のゲストよりゴージャスだ。
「それで?急ぎの話があって来たんだろ?」
ロビー客の大半が自分に見惚れていることにも気づかず。
彼はただ僕だけにとびきりの笑顔を見せて尋ねる。
「そうなんだ。実は例の除霊が上手くいったみたいなの」
「君のお母様が原因だったって言うあれかい?」
眉唾物の話を彼ははなから信じていないみたいだ。
「そう。今朝起きたら僕さ、生まれ変わったみたいで」
「それで——気分はいいの?」
それでもロビーを行き交う人波から守るように
さりげなく僕の腕を引きながら九条さんは尋ねた。
「まあね。僕の中でクリアになったことがある――それで来たんだ」
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