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「面白いこと言うのね。和樹が均衡を保つですって?崩しているの間違いじゃないかしら」
はなから霊能者の言うことなど信用しない女王様だ。
男なら誰もがうっとりしそうな流し目でわざとらしく笑って見せる。
「いいえ。彼がこの家にいないと大変なことになる。ですよね?」
キラは貴恵の意見を無視して話の矛先を薫に向けた。
「ああ——そうだ」
薫は鳶色の瞳でじっとキラを見つめ迷いなく答える。
「俺にも分からないが、あの男の怨霊がそう言うんだ。和樹をこの家に戻せと。この家から出すなと。俺は狂っちゃいない……」
キラは——キラだけはふんふんと頷いて聞いていた。
「その通りです。言ったでしょう。あなたは感受性が強いだけだ。だから霊があなたの口を通して語らせるんです」
そこでキラは意味深に室内をぐるり眺め回した。
「いるのか?親父が」
「キマイラを見て下さい」
征司の問いかけに短く答えると
キラは視線だけ己の愛犬へと移す。
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