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娘とデートの日、久し振りにスーツに袖を通す。
妻と娘を置いて画家になるという夢を追いかける情けない父親だというのに娘の前ではしっかりと父親でいたいのだ。
九月の日曜の日差しはまだ暑いが、気にはならない。娘のデートプランはファミレスでおしゃべり。ただそれだけ。
「どうせお父さん、お金ないんでしょ?」
電話口でそう言われてやはり口ごもったことに娘は笑っていた。
待ち合わせ場所のファミレスに向かうとワンピースに身を包んだ娘が入り口の前で空を眺めていた。
「お父さん!」
そっと近付くと私が声をかけるより先に娘が気付いて手を振った。
まだ、十にも満たない娘が、私を笑顔で迎えてくれた。
「大きくなったか?」
「お父さん、まだ一ヶ月も経ってないんだよ?視力落ちた?」
言葉尻がキツいのは妻によく似ている。
お互いにハンバーグとドリンクバーを頼み、娘は顔を会わせている最中、ずっと自分の話をしていた。
「学校でね……」
「先生に絵を褒められたの!」
「お母さん、前より厳しくなっちゃってさぁ……」
私が口を挟む余裕などどこにもない。
ただ、とても心地の良い時間だった。
娘は日が暮れるまでおしゃべりをしてから、もう帰らなくちゃ!と叫んだ。
私が会計を済ませてあと、娘は夕闇に紛れなからこう言ったのだ。
「来月もデートしてくれなきゃ大嫌いだからね!」
「分かった」
即答すると娘は手を振りながら駆けていく。
すぐ近くに住んでいるのだから、会うことは容易い。
だが、デートと言われると心が踊る。
大嫌いだからね!と言われると心が焦るのだ。
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