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一人とぼとぼとアパートに帰り灯りをつける。
殺風景な部屋にぽつんと浮かび上がるイーゼルと椅子。
私は、そのイーゼルから描きかけのキャンバスを外してまっさらなものと替える。
椅子に座り絵筆を持ち目を閉じる。
瞼の裏に浮かび上がるのは娘の笑顔。
ゆっくりと目を開いてから絵筆を走らせる。
娘の絵をどうしても描きたいと思ったから。
つい時間を忘れて描くことに没頭していたら空腹になっていることに気付いた。
夕飯を軽く済ませようと立ち上がり、インスタントラーメンを作るために鍋で湯を沸かす。
その間、何気なくスマホを手に取ると妻からメールがあった。
『今日は楽しかった?来月もよろしくね。でなきゃ大嫌いだって言ってるからね』
私は、もちろんだよと返信をする。
そして、どうしても娘の言葉が耳に甦る。
「大嫌いだからね!」
本当に恐ろしい言葉だ。それを言われると何でもお願いを聞いてしまいそうだ。
その夜、インスタントラーメンを食べてから床についた。
スーツをクリーニングに出さなきゃなと胸に刻みながら。
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