お父さんなんか大嫌い!!

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お父さんなんか大嫌い!!

うだるような夏だった。紙切れ一枚で生活が変わる。 妻も娘も愛していた。大好きだ。いや今でもしっかりと愛している。 妻と娘を置いて家を出たあの日。 妻は、しっかりねと微笑んでいた。 娘は……、妻によく似たえくぼが浮かぶ顔を真っ赤にして泣き腫らしていた。 「お父さんなんか大嫌い!!」と叫んで。 額に嫌な汗が浮かんだのを覚えている。 つい、ごめんなと呟いたら娘は更に叫んだ。 「謝らないで!!」 だからこそ、背を向けた。決して感謝を忘れてはならない。 うだるような夏だったというのに私は家族の温かみを感じたのも事実。暑いというより温かったのだ。 家族と離れて独り暮らしを始めたアパートの部屋に最初に持ち込んだのはイーゼルだった。 会社員であったのに、それすら蹴飛ばしてフリーターになり、ちまちまと油彩の絵の具を買い揃える。 絵筆は学生時代に使っていたものを実家から引っ張り出してきた。 夢を追う。家族を置いてまで私がやりたかったこと。 いつか諦めていたと思い込んでいた夢。 絵を描くこと。画家になること。 そのために自らを追い詰めること。
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