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身支度を済ませ、荷を纏め、明け方近くに宿を出る。
朝食は向こうで摂ろう。市場の近くには俺のような商人や職人のため、早くに開いている飯屋も多いはずだ。
地図とランタンを手に歩く街はまだ夜闇に包まれていて、日中なら目に鮮やかな三色のレンガ造りも今は黒一色だ。
市場への道は途中大きく二つに分かれ、他方は街一番の高い丘に続いている。そして俺は市場の方へ行かずそちらの道を進んだ。
丘からは街と海が一望できるそうで、仕事始めを前に朝日が照らす街を拝んでおきたかったのだ。
地図通りに坂を登り、角を曲がり、階段を上がれば当然丘に辿り着いたが、そこで思わぬものに出くわすことになる。
――なんだありゃ……。
丘には目印でもある鐘塔が建っているが、そこから少し離れた、ちょうど街を見渡すのにいいな、という位置に大きな塊が鎮座していた。
最初は大岩かと思ったが、それにしては輪郭が丸っこい。
ランタンの灯をかざしてみると闇の中にその全貌が浮かび上がった。
ワニより何回りも大きな体。折り畳んだ翼には羽毛が無く、あちこちに作った傷からの流血が体表を覆う鱗を濡らしている。
――竜か……。
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