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エピソード0 禁断の果実
真っ赤な真っ赤な赤いリンゴ。
アダムとイブのように禁断の果実をあなたが食べればいいのに。
そうしたら、私たちの運命は違うものになった?
「斎藤?これ何?」
怪訝そうに見つめる私の上司あり、この会社の副社長である遠山遼平にニコリと微笑む。
「りんごです。胃腸が弱っているときに良いと聞いたことありませんか?」
ジッと真っ赤なリンゴを見つめていたが、副社長は小さくため息をついた。
「どうしたんだ?いつも冷静で真面目な君がこんなこと……」
その言葉に私はちくりと心に棘が刺さる。
「失礼しました」
小さく言葉を発した私に、副社長は真っすぐに私を見据えた。
「俺の事……殺したかったりして?」
その言葉にドキッとして、リンゴに手を伸ばしていた手が止まる。
しかしすぐに気を取り直して、私はフワリと微笑んだ。
「まさか。ここのところ体調の悪い副社長がご心配で」
その言葉を紡ぎだすと、私はこれでもと言っていいほど満面の笑みを作る。
「……そうか。優秀な秘書を持って俺は幸せだな」
そう言うと副社長はリンゴを私の手からそっと取ると、小気味いい音を立ててかぶりついた。
一瞬だけ触れた場所が熱を持つ。
これが本物の禁断の果実だったら、私とあなたはどうなるのだろう?
善悪と知識の実を私が食べたなら、私はあなたをどうしたいのだろう?
この世の中で一番憎いあなたを、愛しそうになる私が一番の罪人かもしれない。
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